(※編注:リターンキー…エンターキーのことです。)

754: sage 20/04/03(金)03:18:12 ID:mt.mc.L1
どこに書けばいいのか、わからないのでこちらに。
十ウン年前の話だけど、初めてできた部下Aくん。
常務のコネとかで、常務からは
「おとなしいけれど、根は素直ないいやつなので」
とよろしく頼まれた。

Aくん本人は、二十代半ばの色白のおとなしいタイプ。
芸能人でいえば、藤井隆をスリムにした感じ。
自分が係長になって初めて預かった新人だから、そりゃもう、優しく接した。
Aくんは仕事ぶりも丁寧だし勝手なことをしないので、安心して仕事を任せられた。

で、その当時、うちの部署には、俺より先輩のお局Kがいた。
Kは主任なのだが、やたらと感情的で仕事もできない。
ただ、若い頃は部長たちのマスコット的存在だったとかで、上からの覚えだけはいい。

このお局がAくんに目を付けた。
自分の仕事をAくんに押し付けては難癖をつける。
昼休みに机に残って電話番をしろと命ずる。
就業中におやつを買いに行かせる。
(こりゃいかん)
と思って、お局Kを呼び出し、
「Aくんは俺の部下なのだから、なにか命ずる時は俺を通してほしい」
と話をした。

ところがKは注意されたのを、『Aがチクったからだ』と逆恨みし、仕事でもいやがらせを始めるようになった。
目の前でやられる嫌がらせはその場で注意もできるが、俺の見てないところでやられる嫌がらせはそうもいかない。
お局KとAくんの席を離したり色々したが、コピー室などで行われてる嫌がらせまでは止められなかった。

この頃、Aくんと飲みに行って
「Kさんからイヤなことされてないか?」
と聞いたのだが、Aくんは
「自分が至らないばかりに迷惑ばかりかけて、Kさんを怒らせてしまって申し訳ない」
と言うだけだった……。




事件が起きたのは7月の半ばだった。

8月のシフトを決めるためにみんなから届けを出してもらうのだが、Kは当たり前のように自分優先(Kは秋田の実家に帰るのが楽しみだった)。
Kはシフトを俺や課長より先に部長に承認させてしまうので、止めようがなかった。

755: sage 20/04/03(金)03:18:47 ID:mt.mc.L1
だが、その休みシフトの一部がAくんと被ってしまった。そのころ、会社には暗黙の了解として『(里心のつく時期だから)入社1年目の夏休みはなるべく優遇をつける』というのがあったのだが、Kは絶対に譲らなかった。
Aくんは了承もしなければ逆らいもしないで、
「考えさせてください」
で返事を保留した。

次の日、お局Kが当たり前のように始業時間が始まってから机につくと、いつもよりも思いつめた表情のAくんがKの元へスタスタと歩み寄った。
Aくんは丁寧に頭を下げて
「Kさん、やっぱり夏休みのシフトの件は譲れません。勘弁してください」
お局Kは
「でも、私のシフトはもう、部長の承認もらったからねー」

次の瞬間、お局Kの身体が椅子から吹っ飛んだ。

本当に数十センチ浮かんで、横に
バーン
と飛んだ。

課のみんなが
「え?」
と見ると、
床に転がったKをAくんがガンガン蹴飛ばしてる。
しかも、蹴ってる間、Aくんはずっと無言。
Kだけがうずくまって
「ヒィー」「あう」
とか短い悲鳴をあげている。

後輩の
「係長!」
って声に我に返った俺はなんとかAくんに抱きつくようにして止め、他の課員何人かがうずくまるKさんを介抱。
頭を何度か蹴られてるということで救急車が呼ばれ、Aくんは常務室に連れていかれた。

俺も常務室に一緒に行ったのだが、事情を聴いた常務の第一声が
「また、やっちまったのか!」
だった。
常務が俺に説明してくれたのだが、
Aくんは小中学校でいじめられていて、高校の時に木刀もっていじめっ子に仕返しをし、3人を血祭りにあげたことがあったのだという。
「その時やり返されたいじめっ子の一人は頭蓋骨を骨折して、今も視力が完全に回復していない」
と。
Aくんは警察に補導され、鑑別所へ。
その後、高卒の検定で卒業資格をとり大学の二部へ通ったんだそうだ。

756: sage 20/04/03(金)03:21:27 ID:mt.mc.L1
常務はAくんの父親と同級生で、そのお父さんから泣いて土下座されてAくんを預かったらしい。
「凶状持ちだと聞いていたが、実際に会ってみたAくんはとても真面目そうだし、大丈夫だろうと預かったのだが、まさか、会社でやるとは思わなかった」
と。

Aくんに
「なんで、あそこまでやったんだ?」
と聞くと、Aくんは顔色ひとつ変えずに
「ああいう人種は、やり返さなければ永遠にわからないんです」
とさらっと。
その日の午後から、Aくんは寮で自宅待機となり、お局Kは検査などで数日入院。
人事部と総務部と法務部が出てきて会議、Aくんが社内いじめに近いことをされていたのを情状酌量して、自己都合で退職してもらうことになった。

お局Kはショックを受けたとか何とかで、その後も1か月ほど休んでから復職したが、
三十代なのに一気に老け込んで白髪だらけになり、物音にビクビクするようになっていた。
その後、
「リターンキーを『ターン!』と叩く音がすると過呼吸が出る」
とかなんとか言って結局、半年もせずに故郷の秋田に帰った。

で、これが十数年前の話なのだが、つい先日、デパ地下の食品売り場でAくんと再会した。
Aくんは退職後に総菜屋に再就職し、今は催事場などに叉焼やローストチキンなどを売りに来たりしてるという。
結婚もして、2人の子持ちだとか。
ニコニコと
「あの頃はお世話になりました」
と色々サービスしてくれたのだが、『今も暴れちゃうことあるの?』とは流石に聞けなかった。



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