692: 名無しさん@おーぷん 2015/07/16(木)12:13:36 ID:Xpx
大学の創作文芸サークルに所属している。
創作は基本的に年一回、学祭で発行する同人誌用に書くだけで、あとの期間は週1冊皆で同じ本を読み、書評を言い合うのが慣例だ。

そのサークルにAという奴が入ってきた。
Aは自称
『読み巧者』
で、自分じゃ毒舌の切れがいいと思っている典型的なタイプ。
週1回のお題として出された本を必ずくそみそに貶す。
しかもろくに読んでいない。

「2ページ読んでやめた。時間の無駄」
「冒頭からして意味不明。クズ本」
「あらすじで読む気をなくした」
「女作者というだけでゴミ決定」
「読む価値なし」
「読むべき本に漂っているオーラがない」
「タイトルとペンネームが糞。中身も推してしかるべし」


つねにこんな感じ。
口癖は「知識が増えない本は紙と時間の無駄」

693: 名無しさん@おーぷん 2015/07/16(木)12:13:47 ID:Xpx
うちのサークルは創作を兼ねており、読むのも書くのも小説が中心だ。
小説は知識を増やすための実用的なものではなく、娯楽であり文化であり、むしろ実用性・現実性を要しないものだというのがサークルの総意。
部長がそれをAに話し、
「知識のみを求めるならうちのサークルと合わないのではないか」
と提言したがAは辞めなかった。

ちなみにAが『お題』として出してくるお薦め本はミステリばかりだった。
ミステリは薀蓄が多く、知識が増えるのでいいんだそうだ。

ある時Bが、Aの好きなミステリ作家の最新刊をお題にした。
翌週の書評会で、皆が感想を言い合っているとAが切れた。
興奮してなにを言っているかよくわからなかったが、要約すると
「ネタバレするな」
ということらしかった。

しかしその場にいる皆は、お題の本を読みきっているのが前提で集まっている。
Aの抗議はまとはずれだ。
「まだ読んでないなら帰れ」
と言ったが、Aは帰らず最後までブツブツ言っていた。

694: 名無しさん@おーぷん 2015/07/16(木)12:14:00 ID:Xpx
次の時も同じく人気ミステリ作家の最新刊にした。
やはりAは
「ネタバレするな氏ね」
と大騒ぎした。

それでわかったこと。
Aは読むのが遅かった。
1冊読むのに最低でも三ヶ月かかるらしい。
週1冊は彼のペースではとても無理だった。

そしてミステリのようなはっきりした解決のある話でないと理解できない(曖昧な心理描写が苦手で意味が読みとれない)ため、エンタメ以外の文学作品も無理だった。
なので書評がいつも
「読んでない。読むだけ無駄」
という貶しだった。

しかし自称『読み巧者』としてはペースが合わせられないとは言えなかった。
サークル脱退もプライドに関わるためできなかった。

そんなサークル活動でなにが楽しいんだ?と疑問だったが
「サークルに入ってないとぼっちだと思われる」
とAは言い張った。

その後も書評会はAの言う『ネタバレ』ばかりが連続したためAはサークルに来なくなった。
卒業まで籍はあったが、当然創作もしなかった。
2年もすると『創作文芸サークル』でなくすっかり『ミス研』になってしまったが、Aは来なくなったし、部員も増えたのでよしとする。



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